東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)228号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実及び審決の理由の要点1ないし3で認定された事実は当事者間に争いがない。
二 そこで原告主張の審決取消事由について判断する。
1 第一引用例に記載された考案の技術内容の誤認について
当事者間に争いのない審決の理由の要点2及び3に認定された事実によれば、審決が第一引用例に記載されていると認定し、本願考案と対比した第一引用考案は、「円周面を有する基材の円周面に切刃を連続的に形成し、各刃の刃先が基材の軸線方向に対して斜めになるようにしてなる魚節類切削用刃物。」であることは明らかである。
成立に争いのない甲第七号証(実開昭四七―八七九一号公報、第一引用例)によれば、第一引用例は、考案の名称を「鰹節削り器」とする実用新案登録出願の出願公開公報であり、前記の刃物に該当するヘリカリ式刃ローラを構成として含む鰹節削り器が開示されていること、同公報に登載された右考案の出願当初の図面及び補正後の図面には、右刃物を二本並行に設けた実施例が記載されていることが認められる。しかし、審決が第一引用例に記載されていると認定し本願考案と対比したのは前記の刃物そのものであつて、それを構成の一部として含む鰹節削り器ではない。仮に、右鰹節削り器が原告の主張するように切削が困難なものであるとしても、それは刃物の設置の仕方、その回転の方向、魚節類の押し当て方によるものであることは原告の主張自体から明らかで、刃物そのものに起因するものでないから、右鰹節削り器では切削が困難であることを認定しないからといつて刃物そのものである第一引用考案の技術内容を誤認したとはいえない。
2 本願考案の進歩性の判断の誤りについて
第一引用考案の刃物は丸棒状の基材に形成されたヘリカル刃であるのに対し、第二引用例には断続刃が開示されているが、それは扁平な板状刃を断続させたものであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第八号証(実公昭四七―四一三九二号公報 第二引用例)によれば、第二引用考案は、平らな回転刃盤に設けられた刃口の裏側の刃受部に右扁平な板状の断続刃を取り付けたものであることが認められる。右事実と、当事者間に争いのない審決の理由の要点2、3の事実、前記甲第七号証、甲第八号証によれば、第一引用考案の基材に形成された一条の刃と第二引用考案に取り付けられた一枚の刃とを比べると、両者は、刃物を設ける基材に形成されたものと基材に取り付けられたもの、ヘリカルな(丸棒状の基材の軸線方向に対し斜めになるような緩やかな螺旋状の)刃と扁平な板状の刃という違いはあるが、一定の長さを持つ魚節類切削用刃物の刃という基本的な点では同一であり、技術的な共通点を有するものと認められる。したがつて、第一引用考案の刃物と第二引用考案の刃物は構造が根本的に異なり、両刃物には技術的共通性がないとする原告の主張は理由がない。
また、審決が第一引用考案として本願考案と対比したのは前記の丸棒状の刃物そのものであつて鰹節削り器ではないことは右1に認定したとおりである。本願考案の進歩性の有無の検討は、第一引用例に記載の鰹節削り器が切削困難なものであることを前提に、それを切削可能に改良する過程で本願考案を案出することが困難か否かを問題にするのではなく、第一引用考案の刃物と第二引用考案の刃物から当業者が本願考案を案出することの困難性の有無を検討すべきものである。したがつて、第一引用例に記載の鰹節削り器が切削困難なものであり、当業者としてはそれをいかに切削可能に改良するかを考えるのが通常であることを理由として本願考案が容易でないとする原告の主張は採用できない。
さらに、前記甲第八号証によれば、第二引用例には第二引用考案の刃物において、幅が三ミリメートル強の刃と幅が三ミリメートル弱の欠刃部とを交互に形成した切削刃を二本用いた場合又は幅が三ミリメートル強の刃と幅が六ミリメートル弱の欠刃部とを交互に形成した切削刃を三本用いた場合にほぼ三ミリメートル幅に鰹節を切削できることが記載されていることが認められ、かつ、刃物で物を削る場合削られる物が刃の幅より大きければ、削り出される小片の幅は刃物の幅にほぼ同じくその長さは刃が物を削つた長さにほぼ同じことは自明のことである。したがつて、本願考案の刃物を回転させこれに魚節類を押し当てることにより、幅が断続刃の幅とほぼ同じ均一の幅で、長さが刃物が魚節類を削つた長さにほぼ同じ、ほぼ均一の形状の削り節の小片が切削できる効果は、当業者にとつて容易に予想できるもので顕著なものではなく、本願考案の進歩性を裏づけるものではない。原告主張の本願考案の効果のうち、二次加工の必要がなく、二次加工によりささくれ立つことのない扁平なものが得られる点は前記の均一の形状の小片が切削できることによる間接的な効果であり、これも当業者にとつて容易に予想できるものである。
原告は本願考案の効果として、薄くて、厚さがほぼ均一で、だしをとるときに味の出具合がよく、食べたときに柔らかい食感の削り節が得られると主張するところ、成立に争いのない甲第四号証によれば、昭和五八年七月四日付け手続補正書によつて補正された本願の明細書の考案の詳細な説明の項に、「削り節は料理に使用した場合のだしの出具合や舌ざわりなどの面からできるだけ薄くしかも厚さ、形状の均一なものが望まれる。」(一頁一〇行目から一二行目)と記載されていることが認められ、右記載によれば、だしの出具合がよいことや柔らかい食感が得られることは削り節が薄く、厚さ、形状が均一であることによるものと認識されていることが明らかである。しかし、前記甲第四号証によれば、右補正後の本願の明細書の考案の詳細な説明の項には、「しかも魚節類dを断続刃(2)に少しずつ押し当てれば、いくらでも薄く切削できる。」(七頁七行目から九行目)と記載されていることが認められ、これによれば、本願考案の刃物で切削される削り節の厚さは魚節類を本願考案の刃物に押し当てる量の程度によつて左右されることが明らかであるところ、本願考案の刃物自体がその量を調整する機能を有していることを認めるに足りる証拠はなく、本願明細書にもそのような作用の開示はない。したがつて、本願考案により、薄くて、厚さがほぼ均一で、だしをとるときに味の出具合がよく、食べたときに柔らか、食感の削り節が得られる効果が達成される旨の原告の主張は採用できない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、本願考案は第一引用考案及び第二引用考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたとする審決の判断は正当であり、その他審決にこれを取消すべき違法の点は見当らない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
円周面を有する基材の円周面に切刃を断続的に形成し、各刃の刃先が基材の軸線方向に対して斜めになるようにしてなる魚節類切削用刃物。